「あんまり云はん方がいゝぞ。」
若い弁護人は自分の担任した被告の妻と妹とに判決の結果を通知する電報を認めなければならなかつたが、こんなごたついて居る処では、それを認める余席もないと思つて、廊下へ出た。身を切る様な冷たい風が大きな階段の口から彼の熱した顔を吹きつけた。心持が晴々したやうに感じた。
「どうでした。」
彼の肩をそつと押へたものがある。見るとヽヽ新聞の記者であつた。
「いや、どうも。」彼は成るべく会話を避けようとしたが、記者は畳みかけて問出した。
「あの通り執行する積りでせうか。」
「えゝ。」彼が問の意味を解しなかつたと見て取つて記者は註釈を加へた。
「判決通り、みんな死刑にするんでせうか。」
「それは勿論さ。」彼は腹立しげにかう答へた。
「だつてあんまり酷いぢやありませんか。」と記者は云つた。此時彼は鋭い論理を頭に組上げて居たが、それが出来るとすぐ記者に向つて反問した。
「この判決には上訴を許されないんだぜ。一審にして終審なんだ。言渡と同時に確定するんだ。確定した判決は当然執行さるべきものである。君はどう思ふ。」
「それは無論さうです。ですが……。」
「執行されないかも知
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