れないつて云ふのか。君は、判決の効力に疑をもつてゐるんだね。」
「疑を持つてるつて云ふ訳ではないんですが……。」
「いや疑つてる。」彼は相手を押へ付けて、
「判決通り死刑を執行するだらうかと云ふ疑問が出る以上は、本気になつて言渡した判決であらうかと云ふ懸念が君にも潜在して居るんだ。かうして判決はして置くが、此判決の儘には執行されないだらうと、裁判官|自《みづから》がある予想を打算して居たんだと云ふ疑惑が、続いて起つて来べき筈だ。君の疑問を推論して行けばだね。」
「いかにもさうなつて行きます。」
「よろしい。要之威信のない判決だと云ふことになる。司法権の堕落だ。」
終りの方は独語の様に云放つて、彼は忙しげに階段を下りて構内の電信取扱所へ行つた。頼信紙をとつて、彼は先づ、
「シケイヲセンコクサレタ」と書いた。けれども彼はこれ丈では物足らなさを感じた。受取つた被告の家族が、どんなに絶望するであらうと想ひやつた。
「構ふものか。」彼は決然として次の如く書加へた。
「シカシキヅカイスルナ。」
彼は書終つて心で叫んだ。
「俺は判決の威信を蔑視した第一の人である。」
[#地から1字上げ](大正二
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