ものですから……女はどうしても意久地がないものですから、……。それが私の恥辱です。私共の先人には、勇敢、決行の模範を示して死んだ人が沢山あります。私はその先人に対して寔に済まないと思ひます。私は潔く死にます。これが私の運命ですから。犠牲者はいつでも最高の栄誉と尊敬とを後代から受けます。私もその犠牲者となつて、今死にます。私はいつの時代にか、私の志のある所が明にされる時代が来るだらうと信じて居ますから何の心残りもありません。」
 彼女がこんな陳述をして居たとき、若い弁護人は、片腹痛いことに思つた。彼女は何ものだ。何の理解があると云ふのだ。云はでものことを云ひふらし、書かでものことを書き散らし、警察の厳重なる取締を受けなければならなくなつて、無暗と神経を昂らせ、反抗的気分を増進させ、とどのつまりは此の如き犯罪を計画した。それが何の犠牲者である、何の栄誉と尊敬とが報いられる。元来当局者の騒ぎ方からして仰々しい。今にも国家の破壊が行はれるかのやうに、被告が往返する通路には、五歩に一人宛の警官を配置する。憲兵で裁判所を警戒する。裁判官、弁護人にも護衛を附す。こんなことは、彼女等をして益々得意にな
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