らないと悲観しなければならなくなる。その悲観が事実となつてしまつて、被告等の予期は全く外れた。彼等は矢張り死刑に処せられた。若い弁護人は彼等の失望、落胆が忿懣に変じ、若くは自棄となつて、どんな無分別を起さぬとも限るまいと思つたから、慰藉とある希望とを与へたいと考へて、静に被告の席近く進んだのであつた。
被告席は四列になつてゐて、彼の担任せる被告等は第三列目の中程に居た。彼はその第四列目の右手の通路を隔てた処に、女囚の真野すゞ子が独放れて、一人椅子《いちにんいす》に凭つてるのを見た。彼女は彼を見て黙礼した。彼も同じく黙礼した。一語をも交したことのない女と、一語を交すこともなく別れて了ふのだと思つて、彼は或種の感じに撲たれた。
訴訟法上の形式として、総べての取調の終了したとき、裁判長は被告等に最後の陳述を許した。此許に応じて陳述したものが二人あつた。その一人はすゞ子である。
「長い間御辛労をかけましたが、事件も愈々今日でお仕舞となりました。私はもう何も申上ぐることもありません、又何も悔いる処はありません、私が只残念なのは、折角のヽヽが全くヽヽに終つたこと、それ丈であります。私が女だつた
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