の被告にある注意を与へようと思つたが為であつた。其被告は犯罪の中心からは遠く離れて居たものであつた。予審及捜査に関する調書上の記述よりも、被告が法廷でした供述を重んずるといふ主義の裁判官であるならば、彼等は当然無罪となるべきものであつた。少くとも不敬罪の最長期五年の科刑が適当のものであつた。何分にも今の裁判所では、予審及捜査に関する調書の証拠力に絶対の価値が附せられてある。事実の真相と云ふものは、検事及び予審判事が密行して調査した材料から組立てらるべきものであると信ぜられてある。調書は法律知識のある判検事が理詰《りづめ》で作上げたものであるから、前後一貫、些の矛盾や破綻を示さない。被告が公判に附せられたとき、被告の罪科は既に決定して動すべからざるものとなつて了つて居る。此意味に於て今の公判は予審の復習である。予審判事、検事が、極端に被告の自供を強要するの悪習は、この調書に絶対の証拠力を附すと云ふ公判判事の無識、無定見から由来して居ると云つてもいゝ。此事件の如きは殊に調書の作成に苦心したらしかつた。一代を震骸すべき重大犯罪事件の調書として、其数頁を繰つたものは、誰でも被告の自白なるものが
前へ
次へ
全45ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング