全くかけ離れて居るものを、必ず一つの主文にしてしまはなければならないと云ふ法則でもあるのであらうか。それよりももつと重大な影響――かくも容易に多数の死刑囚を出したことより生ずる重刑主義の影響が、国民の精神教育にどんな利弊を来たすであらうか。……之等幾多の疑惑は決して傍聴人には起らなかつた。文明の裁判制度と云ふものは斯程迄に国民の信頼を受けつゝあるのであつた。
 若い弁護人は、目前に現はれた死刑の宜告の事実を打消すことは出来ない乍らも、之が真実の出来事であるとはどうしても思へなかつた。二十幾人が数日後に死ぬ。いやどうして死ぬものか。此矛盾した考の調和に苦んだ。忽ち一つの考が頭の中に閃いた、鳴呼、判官は深く考へてゐる。被告は決して殺されることはない。一審にして終審なる此判決は宣告とともに確定する。之を変改することは帝王の力でも為能はざる処である。死刑は即ち執行せられ、彼等はみんな殺される。けれども彼等は死《しな》ない。判決の変改は出来なくとも、その効果は或る方法によつては動かし得ないでもない。或方法……或方法……。
 若い弁護人は自分の席を起つて、被告席の方へ足を運んだ。自分の担任した二人
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