法。然らざる時は、判官諸公も即ち人である。人としての諸公が、人としての死刑囚に対したとき、その顔を見るに堪へずとして、自らの顔を背け、寸時もその席にある能はざるの態を示して、出来得るだけ迅速に、しかも威容を乱さずして、その席を退かれたこと、之れ人情の真の流露と見るべきではあるまいか。
若い弁護人は斯の如く推断して、善意を以つて判官諸公を見送つた。
傍聴人は最初より静粛であつた。宣告を聞いてからも、一語を発する者もなかつた。退場と云ふときにも、唯々として列を正して出てしまつた。固より自分一身に関係したことではない。彼等は自らの生活の為、泣き惑ひ、悶えあがきこそすれ、それがこの事件と何の連絡があらう。彼等は彼等の好奇心をさへ満足させればそれでいゝのである。法廷の状況、被告の顔付、新聞の号外よりはいくらか早く知ることの出来る判決の結果。それ等の希望は悉く達することが出来た以上に、彼等に何の慾求があらう。
被告銘々にそれ/″\酌量すべき情状がなかつたか。有つても之を判官が酌量しなかつたか。それは判官として正当な遣方であらうか。中心となるべき四五人の関係事実と、其他の多数者の関係事実とが、
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