せざる弾の行方。無意義な文字が示したと云ふ有意義の効果。あらゆる情緒、あらゆる想像、あらゆる予望が、代る/″\彼等の目の前に去来した。それも僅か十分か十五分の後は、一切が鉄案となることが前提されて居るだけ、それだけ彼等の神経は昂奮もし、敏感にもなつて居たのであつた。
たうとう朗読は終つた。何が説明されてあつたかと云ふことについては、誰しも深い注意を与へなかつた。人は只決論[#「決論」に「(ママ)」の注記]を聞かんことを急いで居たからである。
主文の言渡に移つた。裁判長は一段と威容を改めた。声も少し張上げられた。
嗚呼。死刑! 三人を除いた外の二十幾人は悉く死刑。結論は斯の如く無造作であつた。
主文を読終ると裁判官が椅子を離れるとの間は、数へることも出来ない短い時間であつた。逃ぐるが如しと云ふ形容詞はここに用ゐることは出来ないが、その迅速さは殆ど逃ぐるが如しとでも云ひたいのであつた。もとより慌てた様はなかつた。取乱したところも見えなかつた。判官としての威厳と落着とは十分に保たれながらも、何にしても早いものであつた。嘗て控訴院の法廷にかういふことが起つた。強盗殺人かの兇暴な被告であ
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