と》の下つた例は、古今を通じて東西に亙りて、何時の時代にもどんな処にでも起つたこと、起り得ることである。笑つて笞を受けた囚人は、後には泣いて追慕の涙に滲んだ弔詞を受ける先覚者である。俺もさうだ、今にさうなる……。
 女々しい涙を揮払つて彼は起上らうとした。手の自由が利かないので、一寸起つことが出来ない。やけに手錠を外して了はうとして、両足をかけてぐつと押した。手首よりも掌は勿論大きい。そんなことで手錠が外れさうのことはない。押した力で手錠の鉄が彼の肉や骨に喰入るやうに痛むのであつた。「ああ」彼はぐつたりと又倒れてしまつた。
 彼が東京へ護送せらるゝ為梅田の停車場から汽車にのつたのは、それから二日後の事であつた。
「私はとても助からないと思ひました。汽車に乗つてからも、死んで了ふと覚悟しました。窓の側に坐つて外を見てゐますと、すつかり日はくれて、外は真暗です。飛びおりてしまへばすぐに死ねるんだと思つても、いざとなると一寸思切が出来ないでゐるうちに、汽車はどん/\進行して行きます。愚図愚図して居ると機会がなくなつて了ふと思つて気がわく/\します。どうもいゝきつかけがありません。すると私は自
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