れてしまつて、身体は木の塊《ころ》のやうに投付けられ、僅か一坪半の平面だけが彼の足の踏処となつて居るに過ぎない。もし一歩でもこれから外へ踏出せば、大きな声にがなられ、撲られ、こづかれ、足蹴にされるのである。二言目には「死損奴」と。今も二人の警官が長いこと怒鳴散して行つた。その詞の中て、彼の鼓膜に響いたのは「死損の癖に」と云はれたそればかりであつた。
「本当に殺されるのであらう。」彼はかう思込むと涙が溢れた。頬を伝つて枕許へ落ちた。ぽとりぽとりと一つ/\寂しい音をして涙は落つるのであつた。
友達の様な口吻で警吏は彼を彼の家に訪問し、そして有無を云はさず警察に引致した。事はそれから始まつたのである。之れまでとても彼は自由の尊さを知らない訳ではなかつた。生噛りの思想論を振廻して「人間の最も幸福と云ふことは絶対的に他より拘束せられざる生活より生ず」といふことなどを一つの信条であるかの如く云散らして居た。されどもそれは彼に取つては、空論であつた。長押《なげし》の額面の文字を眺めて居る位の感じで、自由と云ふ文字を遠くに置いて之を※[#「りっしんべん+尚」、第3水準1−84−54]悦《しようきよう
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