の口供を強ひても要求するやうでは俺はとても我慢しきれない。どうせ殺されるなら、勝手に調書をお作りなさいと云つて了つた方がいいかも知れない。
 彼は出来るだけ恐怖の心から逃れたいと思つた。それにはどう云ふ風にしたがよいのであらう。眠るのが一番に賢いことである。さもなくば、殺されることなどは決してないと決定をつけるか。死ぬとなつて見て何が悲しいかと自ら諦めをつけるかの二つしかないのである。到底眠ることは出来ない。それなら殺される様に事件が成行くまいと云ふ予定が出来得ようか。此予定をつけるには此先幾多の糾弾の惨苦に堪へ得なければならない。さらば死を決して了へるか。こんな大きな、神秘な問題は彼に解決のつくべき筈がない。生か、死か、自由か、強情か。彼は縺れかゝつた絲巻の端をさがさなければならないと思つて、気を平にしようと努めた。群がる雑念は彼の努力を攪乱した。一層のいらだたしさが彼の頭の中を駈けまはりはじめたのであつた。彼はしばらく瞑想して見たが、とても堪へ切れなくなつて、そつと眼蓋を上げて四辺を見廻した。部屋は依然として真暗である。先刻《さつき》眠からさめた時のことを思へば、いくらか明みがまし
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