戻つては来なかつた。機械のうなりが耳の傍近くに迫つて聞えるやうな、押付けられた気分が段々に募つて来る。今はかうして手足を伸ばして寝て居るんだが、明日の朝になつたら俺はどうなるのであらう。手錠、腰縄、審問場、捜査官。そして激しい訊問。厳しい糾弾。長時間の起立。何たる恐しい事であらう。
一体俺は志士でも思想家でもないんだ。俺は一度だつて犠牲者となる覚悟をもつたことがない。革命と云ふやうなことは、俺とは関係のない外の勇しい人のする役目なんだ。遠くからそれを眺めて囃したてゝ居れば、それで俺の役目はすむ訳だ。俺は一体何を企てたと云ふのであらう。一時の勢にかられたときは、随分|飛放《とつぱな》れた言動もしないではなかつたが、それは一時の興である。興がさめたときは、俺は只の三村保三郎である。臆病な、気の弱い、箸にも棒にもかゝらぬやくざものだ。
俺の様なものを引張つて、志士らしく、思想家らしく取扱はうとする当局者の気が知れない。けれども当局者はどこまでも俺の犯罪を迫及する、俺は助からぬかも知れない。殺されることがもう予定されてるのかも知れない。こんな臭い部屋へ抛りこんで現責《うつつぜめ》とやらで俺
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