つづけて言った。「世の中のこたア、ちょっと見るとバラバラのように見えることも、みんなたがいにつながりを持っているんだ。俺たちア大丸のおやじに搾られてるばかしでなく、大山のおやじにも搾られてるんだど。つまり二重にしぼられてるんだ。そのうえ、もしもおめえが、村で大山の田圃を小作しているとでもして見ねえか。三重にも四重にも搾られてることになろうが。」
源吉は、なるほど、と思った。聞いているうちに今まで目を覆うていた鱗がぽろりと落ちて、目の前が急に明るくなって来たような気がした。今まで自分が住んでいた狭い世界から、急に広々とした世界に躍り出したような気がしてきた。それにしてもこいつはなんとよくものを知っている奴だろう。今までこうした事実をこういうふうに俺に話してくれた奴は村には一人だってありはしない……。
ふとそのとき源吉は、争議のそもそもの最初から胸に持っていた一つの疑問を山本に訊いてみる気になった。
「ちょっと訊きてえことがあるんだが。」
「なんだ?」
「どうしてこんだァ九一金と一緒に契約書の問題ば漁場主《おやじ》に持ち出さなかっただかね?」
「えれえぞ!」と山本は突然大きな声で言って
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