、しんからうれしそうににこにこしだした。「おめえ、もうそんなことに気がついただか。」
「そりゃなア、おれもおもわねえじゃなかった。だけんどヤン衆たちアみんなこんなことにははじめてのものばっかしだべ。で、訓練がこれっぱかしもできてねえんだ。だもんであんまりいろんな問題持ち出しちゃ、まとまるめえって心配《しんぺえ》があったからわざと引っこめておいたのよ。」
七
後鰊もすんで終漁の時が来た。
腮別《あごわか》れ(終漁祝)には安着祝のときよりも少しは多く酒が出、漁夫たちはよっぱらってだみごえでうたをうたった。旦那の家の大広間ではあったが、今夜だけは誰はばかるものもない無礼講だった。彼らのうたう追分節や磯節には、ことしの鰊場かせぎも今日限りという、荒くれた彼らの胸にもわかずにはいない感傷がこもっていた。――旦那はその夜はついに姿を見せなかった。
ここだけでしかしすむ筈はなかった。酒も尽きて解散となると、「行ぐべ、行ぐべ、」と互いに誘い合しながら、彼らは連れ立って夜の町へ出て行った。――源吉はしかし、こんどはそのなかへははいらなかった。みんなからはなれ、山本と二人で外
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