鰊漁場
島木健作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)雪靴《つまご》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)四俵[#底本は「俵」を「依」と誤植]
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一
赤い脚絆がずり下り、右足の雪靴《つまご》の紐が切れかかっているのをなおそうともしないで、源吉はのろのろとあるいて行った。やっと目的地についたという安心も手伝って、T町の入口にさしかかった頃には、飢えと疲れとで彼はそのままそこの雪の上にぶったおれそうだった。角の駄菓子屋で塩あんの大福を五銭だけ買い、それを食いながら、街路の上にようやく人通りの増して来た町のなかへ彼は這入って行った。
長い道のりのあいだ、行手にあたって絶えず見えかくれしていた積丹《しゃこたん》岳は、山裾までその姿をあらわしてすぐ目の前に突っ立っていた。三月に入ると急に気温が高まり、街路の雪が足に重たくべたつくような日がもう三四日つづいていた。見あげると積丹岳の上に重々しくかぶさっていた雪雲はいつか少しずつ割れて行き、その隙間からは晴々とした青い空がのぞかれるのであった。ときどき思い出したよう
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