のである。
畜生、と大丸は心できりきりと歯がみをした。親父の代からの漁場だ。むかしはだがこんなではなかった。いつの頃からかじりじりと目に見えないほどに落ち目になって来、今ではもう起き上れる見とおしもつかないのだ。今年はだから、じつをいえば最後の頑張りのつもりではじめたのだった。小樽へも早々に出かけ、今年はもう融通ができないというのを、大山の白鼠の帳場を待合に生捕り、一週間つきっきりで責めたあげく、資金もやっと借り出して来たのであった。水産試験場の発表には今年は鰊の※[#「※」は「さんずい+回」、第3水準1−86−65、125−13]游が非常に多いであろうとあったし、勇躍してこの漁期を迎えたのだ。それが走りがすむかすまないうちに時化で、枠網一枚台なしにしてしまうし、そんならヤン[#「ヤンに傍点]衆共を喰って埋めあわすばかりだと九一金全廃の腹をきめれば、帳場の奴がとんだどじを踏んでこんどの騒ぎになるし、何一つとしてろくなことはない……。
大丸の目の前には、蛙を狙っている蛇のようにこの漁場を狙って舌なめずりしている大山の親爺の顔がふたたびありありと浮きあがってくるのだった。この鰊場もおそ
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