れも一万五千円はたっぷりかかった。もしも時化で網の損耗でもあればそんなことではとてもすまないのだ。そしてこの毎年の仕込資金の工面が、すべての漁場経営者にとっては頭痛のたねなのであった。――はじめ大丸はみんながするように仕込期に小樽へ出かけて行って、銀行から資金の融通をうけようとした。しかしもうその頃には、銀行の門は彼らに向ってはかたく閉されていたのである。鰊漁業などという堅実味のない、経営主の信用状態もあやふやなものに融資するほどに、銀行の金は遊んではいなかった。やむをえず大丸は、平素の取引商人である小樽切っての海産物問屋大山と契約し製品を担保にして金を融通してもらうことにしたのである。三年五年とそういう状態がつづいて行った。そしてその結果は、漁場主は資金提供者の束縛を脱することはできず、不景気の影響でただでさえ年々下落する一方である製品の価格はそのためにぐんと落され、毎年喰い込むばかりであった。百石三千円と見、平年の漁獲高五百石と見て、一万五千円、金利だけ損だが、それですめばまだいい方だった。大丸の借金はそうして積り積って行った。そして今ではもう漁場を引渡さなければならなくなっていた
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