かれ早かれ彼奴の手に渡るだろう。他の場合にはもう有利とはいえない鰊場も、海産物商である大山にはなお充分な利潤をもたらしてくれるのだ。彼奴はしかし決して自分で経営することはしないだろう。それかといって漁業権を他人に譲り渡すこともすまい。豊漁地であることに惚れこんでひっかかってくる漁業家に高い金で賃貸するのだ。同時に製品は思い切り安い値段で引きとり、――骨までしゃぶったあげくいい潮時を見て彼をそこからおっぽり出し、そこで彼奴はふたたび新しい「かも」のひっかかってくるのを待つだろう……。
「畜生!」
 大丸はこんどは声に出してどなった。そしてあらゆる憎悪のこもった瞳を、何の策もなくぼんやり主人の命を待っている目の前の帳場に向って注いだ。
「汝《われ》、いいようにすべし。汝《われ》仕でかしたこたア、汝《われ》の手で仕末すべし。だが金アびた一文でも出すことはなんねえから――間抜けた面《つら》アいつまでもつん出していたとてラチはあくめえぞ。」
 声をはげましてののしると、漁場主は席を立って足音あらく更に奥まった部屋に引っこんでしまったのである。

 そして争議は結局どうなったか?
 事件はほとんど
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