った。腮別《あごわか》れの時にはじめてそれと知れるぶんには、なんと奴らが騒ごうと平気だ。しかし、今騒がれては……。帳場はじっと唇を噛んでだまる外はなかった。
「それで奴らアなんだっていうんだ!」
「へえ、」
「ヘえじゃねえ。はきはきしろい。」
「一人頭、五十円の九一が出なけりゃ仕事をしねえといっとりますので……。」
「なんだと!」
この時表玄関には、さっき旦那への面会を願って拒絶された山本ら六名の漁夫の代表が頑ばっていた。旦那がなんとしても逢おうとはいわなかったとき、こんなことにはじめての彼らのなかには、途方にくれていち早くくじけた顔つきを見せるものがいた。それを叱咤[#底本は「咤」を「口+它」と誤植]したのは山本だった。
「なんだおめえたち! そんなことで戦争に勝てっかい! 棚からぼた餅をとるんとわけがちがうぞ。逢うというまでへたりこむんだ!」
そこで彼らのうちの三人はべとべとの仕事着のままで上り框に腰をかけ、他の三人はそこの土間にべったりと尻をつけてしまったのである。
目の前に小さくなってかしこまっている帳場が、自分の一喝ごとに小さくちぢこまればちぢこまるほど、彼の姿がどうに
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