を吹っかけて見ようじゃねえか。いいか。そこでだ、かんじんなのはそのはなしのきまりがつき、俺たちが現ナマを握るまでは仕事を休むってこった。旦那に承諾だけさせていつも見てえに腮別《あごわか》れの前に金をもらう約束じゃ、その土壇場になって知らねえっていわれたってどうにもなるこってねえからな。……どうだ、みんなやるか。」
わっという喚声があがった。
「やるぞ!」
何人かが立上った。足踏みをし、「えれえぞ、大将」などというものもあった。わずか三十人ほどなのでまとまるのも早かった。やはり山本の発案で、旦那に逢って談じこむ交渉委員が世話役の名で六人えらばれた。山本はもちろんそのなかにはいった。仲間たちの歓声におくられて六人は時をうつさず旦那の家へ出かけて行った。ほかに五六人が浜べヘ向ってふっ飛んだ。鰊割きの出面《でめん》を牽制するためにである。
残った漁夫たちは大はしゃぎだった。長々と手足をのばして寝そべりながら宿舎に籠城した。「前祝いだ、菜ッ葉ばしでなく晩にゃ少しはうめえものもくわせろよ。」と炊事夫《なべ》に向って言ったりした。いち早くさわぎを聞きつけてかけつけて来た帳場は、うろうろして宿舎
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