と這い出してくるのだった。
「意気地なし、弱りやがったな。」
山本は例の調子で言って、源吉の顔を見あげながら笑った。
何かひきつけられるものがあり、あの晩以来、源吉はしきりに山本に近づこうとするのであった。山本も、これははっきりとした目的から少しでも源吉に話しかける機会を多く持とうとした。火事場のような騒ぎのなかではしかし、ほとんどまとまった話はできなかった。二人はそれでも仕事の時にはちょいちょい一緒になった。源吉が乗りこむ鰊汲舟には山本も乗った。鰊を割く時には山本は源吉の側に来てすわった。それには仕事になれない彼を少しでもかばおうという意味もあった。
「何だア、その手つきあ。おめえ、鰊場かせぎはじめてだな。うまくもぐったものだてば。」
※[#「※」は「手偏+黨」、第3水準1−85−7、114−4]を扱ったり、出刃を使ったりする源吉の手つきを見ながら声をひそめて言うと、山本はずるそうにわらった。而してひょいと出刃を持つ手を左にかえ、鰊の血にまみれた右手を無雑作に襟首につっこんでもぞもぞさせているかとおもうと、虱をその太い指先につまみ出し、出刃の上でピチピチと音をさせてつぶしたりす
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