の乾燥、等々。――漁舎のなかは戦場のような興奮と喧噪のうずまきだった。生臭い魚の血のにおいと腐敗臭が、漁舎ばかりではなく浜全体にびまんして、慣れない百姓や子供のなかには吐気をもよおすものさえあった。

 夜も昼もないそういう労働が何日かつづくと、源吉はさすがに参ってきた。寝て起きたあとには、過労のために自分の身体を見失ったような感覚がけだるくいつまでも残っていた。古い病気が出て弱っているらしい様子を、その顔にありありと示しているものが何人も出て来た。どこへ行っても生臭い鰊の臭いから片ときも脱れることのできないのが何よりも閉口だった。飯や漬物や、――井戸から汲みあげて呑む水にさえほのかなさかなの臭いがしみついていて、口もとにもって行くと、ぷんとした。からだにしみこんだ臭いはいくら洗ってもおちなかった。宿舎のなかは、鰊の血と脂と鱗でギラギラ光っている漁夫たちの仕事着から発散する臭いでむれるようだった。その仕事着のままの姿で彼らは眠るのだ。すぐに彼らの一人一人が虱の巣になった。からだをうごかしているときには奥ふかくひそんでいて、ときどき蠢めくだけであったが、一度横になると襟首や袖口にぞろぞろ
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