くき》るところだ。すじめ、ざらめ、うがのもく等の馬尾藻科の海草が、覗き眼鏡の底に鬱蒼として林のごとく繁茂して、大きな波のうねりのごとにゆらゆらとゆらめいてうつるのであった。他の一艘に分乗した漁夫たちは、探り絲をおろして海底を曳きまわしはじめた。彼らはそうやって海底の岩礁の形や、岩石の表面に牡蠣や、日和貝等の附着した箇所を知るのであった。鰊建網は長さ四十間にわたって海底に敷設する箱形の網である。そしてその箱の底をなす敷網を起して嚢網中に入り込んでくる鰊を捕獲する装置である。だからもしも網を敷設する海底が、岩礁や、貝や、その他の障害物によって凹凸がはげしければ、波のまにまにゆれうごく敷網はその障害物にふれてたちまち傷つき破れざるをえないのだ。――検査を終えた漁夫たちは、やがてそれぞれの箇所ヘ、筵[#底本ではここのみ「莚」。他は「筵」]を縫合したものや、樹の枝を束ねて大きな束にしたものを沈めるのであった。それらは何れも障害物の頂上をおおい、又は網底を持ちあげて、網が直接障害物にふれることを防ぐに役立つものである。
一切の準備を終り、やがて建込みの日が来た。
三月の下旬のある日、えらばれた
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