ヨリ舳二反目ヲ約二尺スリキラル。」――「履歴書」にはそんなふうに書いてある。破損箇所を知ると、船頭は漁夫を指揮し、マニラトワイン、南京麻等の新網を入れ替えてゆく。
一方にはまた鰊を陸上げする時に使う畚を作ったり古いのを修理したりしているものがある。ゴロを作っているものがある。生鰊を箱づめにしておくり出す、その箱を作っているものもある。――他の何人かは廊下に水を流し、清掃しはじめた。廊下とは漁舎のことで、鰊を貯蔵するところであり、また鰊をツブす作業場でもある。それがすむと干場の手入れだ。ここはツブした鰊を目刺しにして乾燥するところだ。
翌日、船頭、下船頭は慣れた漁夫十人ほどと二艘の磯舟に分乗して沖合はるかに漕ぎ出して行った。舟には覗眼鏡、探り絲、八尺、それから筵を何枚も縫い合し、それに錘をつけたものや、樹木の枝を数十本束ねて太い縄でしばり上げそれに十貫にあまる石をおもりとして結びつけたものを数箇つみこんだ。
沖合数百間、十四五尋のところへ来ると、舟はそこに碇泊した。折よく凪で海水は澄み切っている。漁夫たちは覗き目鏡で、海底を覗きこんだ。このあたり一帯の海は、鰊が卵を産みつけに群来《
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