かせいだとて米のめしの喰われる筈はなかんべえに。ぼやぼやしてっといんまに尻の毛まで抜かれっぞ。上川は土地ア後志なんどよりもそりゃ肥えているどもな。地主のえばっているとこアおんなじこった。その年のうちに飯米なくなって唐黍に芋まぜてくっとるぞな。んだからよ、みんなして、貧乏人同士みんなして一つに固まるのよ。そして俺たちの作ったものア、遊んでただまま[#底本は「ただまま」を「ただま」と誤植]くらってる地主に奪られねえ工夫するこった。そのほかに手はなかんべえに。――おめえの村に農民組合あっか?」
「農民組合?」
「なんだ、聞いたこともねえのか。もっとでかい眼玉《まなこだま》あいて世間のことを見べし。」
強い力に押された形で源吉はだまりこんでしまった。なんだか出口につきあたったような気がぼんやりしてきた。真暗がりのなかをぐるぐると鼠まいしているうちに、その一角にぽっかりと穴があいて、一筋の明りを認めたときの気持だった。
枕もとに近い波のおとのあいまあいまに、寺の梵鐘がひびきはじめた。人々の起きる時刻だ。漁夫たちは寝がえりをし、欠びをしはじめた。戸の隙間からはうっすらと朝の光りがさして来た。…
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