とした。その相手の心をよみとった山本は追っかけるようにするどい声でずばり、と言った。
「それでおめえ、自棄《やけ》酒くらってよっぱらってれば、その苦しさから脱けて出られっとでもいうのか。」
 はっと胸をつかれて源吉がおもわず息をのむと、山本はハハハと大声を立てて笑った。源吉はしかし、こんどは怒れなかった。かえって彼は、兄貴からでも叱りつけられたときのような、叱られながらそのものによりかかっているといった、頼もしさと力つよさとをかんじたのである。
「んだら、どうせばいいっていうんだ!」
 彼はせっぱつまったような、苦しそうな声で言った。山本はちょっとの間だまっていた。平べったい大きな鼻がまんなかに頑ばっている、幅の広い日に灼けた顔はいつか真剣な輝きにみちている。
「俺らから身ぐるみ剥ぎとって行ぐ奴からさかしまに剥ぎとってやるまでよ!」
「え。……どうするんだって。」
「地主よ、地主に目がつかんかい、地主に。」
「うん、……]
「おめえの今の小作、小作料なんぼだ。」
「二俵半ばしだ。畑代は四円に近けえ。」
「ふん、四俵[#底本は「俵」を「依」と誤植]も取れねえ田圃に二俵半か。それじゃなんぼ
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