の男だった。
二人はそんなふうにしてだんだん打ちとけて行った。山本はねちねちした口調で、村での源吉のくらし向きの事なぞについて多く訊いた。それに答えながら源吉は少しずつ軽い気持になり、日頃の自分の重苦しい気持というものは、誰に向っても不平の訴えどころのない、捌け口のないというところからも来ている、ということに気がついた。そして日頃自分の胸にわだかまっているもやもやとしたものを、この男ならなんとか解きほぐしてくれるかも知れない、などとおもうのであった。彼は問われるままに鰊場かせぎに来るようになったいきさつについて語り、自分の村での生活について語った。――話をするうちにも、うすっぺらな移民案内一冊を後生大事にふところにいだいての闇の津軽海峡を渡った五年前の興奮が、今は苦い渣滓《おり》となって心の隅にこびりついているのを感ぜずにはいられなかった。
「おめえたちのとこア、年中、米のめしくえるべな。なんしろ上川だでな。北海道一土地が肥えてっのだから」。深いため息をついて源吉はそういい、しんから山本を羨んだ。
「ふん。」
鼻のさきであしらい、人を小馬鹿にしたような調子で山本はいった。源吉はむっ
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