のは日出より日没迄であるが、漁撈、製造の場合は昼夜をとわず、凡て旦那、親方の命に従い何時にても労務に服すること。鰊乗網中は風浪の危険を犯し、昼夜の区別なく最大労務に服すべきこと。労務期間中、死亡し又は負傷して将来労働に堪えざるときは、慰藉料として漁場主より金一封を支給すること。その他等々。
 漁夫たちはだまってきいていた。みんな、そんなことはどうでもいい、と投げ出しているふうに見えた。風浪の危険を犯し、昼夜の区別なく、云々、と声高くよみあげられたときに、ほーっ、えれえこったな、と突然大きな声を出したものがただひとりあった。みんなはびっくりしてその男の方をふりかえってみた。が、話が終りに近づくに従って彼らはしきりに襖のほうを気にし出した。もう酒が出そうなもんだ、とおもうのである。
「わかったな?」
 と帳場はみんなの顔をずーっと見まわしながら言って、
「では、どうぞ。」と、旦那の前に小腰をかがめた。旦那は立上ってうやうやしく神前に額ずき、ぱんぱんと拍手《かしわで》をうって大漁の祈願をこめた。漁夫たちもそれにならった。
 待ちかねていた酒はやがて出るには出たが、一人あたり冷酒一合五勺にも満
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