ったものがことにひどい。犬と猫とでは犬の方がひどい。要するに人間に諂《へつら》って暮らすことに慣れて来たものほど落ちぶれ方がみじめなのである。彼等はゴミためを漁《あさ》りにやって来るが、もはやそのゴミためというものさえも人間の家にはないのである。それでも彼等は毎日根気よくやって来ては庭先や台所口をうろうろする。生垣の隅は幾らふさいでも必ずいつのまにか穴になる。百度狙ううちには一度ぐらいは台所のものを銜《くわ》え込《こ》むことができると思っているのだろう。それに彼等は秋の日の日向《ひなた》ぼっこということもあるらしい。彼等を一番憎んでいるのは母であった。庭の畑作りは母の為事《しごと》であり、彼等は畑を踏み荒すからである。
 私はその頃一日に十五分ぐらいは庭に出られるようになっていた。私も庭に出て彼等を見ることは嫌いだった。私はわけても犬を好かない。主人持ちでいた時には、その家の前を通ったというだけで吠えついたこともある奴が、今はさも馴れ馴れしげに尾など振って近づいてくる。それでいて絶えずこっちの顔いろをうかがっている。こっちの無言の敵意を感ずると、尾をぺたっと尻の間にはさんで、よろけるよ
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