いのである。……それに一度こうこらしめられれば彼奴も懲りるだろう、という私の考えなども考えてみればあまいと言わなければならなかった。彼奴は無論そんな神妙な奴ではないだろう。
午後、私はきまりの安静時間を取り、眠るともなしに少し眠った。妻は配給物を取りに行って手間取って帰って来た。私は覚めるとすぐにまた猫のことを思った。母は天気のいい日の例で今日もやはり一日庭に出て土いじりしているらしかった。私は耳をすましたが、裏には依然それらしい音は何もしなかった。妻は二階へ上ってくるとすぐに言った。
「おっ母さん、もう始末をなすったんですね。今帰って来て、芭蕉の下をひょいと見たら、莚《むしろ》でくるんであって、足の先がちょっと出ていて……」
妻は見るべからざるものを見たというような顔をしていた。
母はどんな手段を取ったものだろう。老人の感情は時としてひどくもろいが、時としては無感動で無感情である。母は老人らしい平気さで処理したものであろう。それにしても彼はその最後の時においてさえ、ぎゃーッとも叫ばなかったのだろうか? いずれにしても私が眠り、妻が使いに出て留守であったのは幸であった。母がわざわ
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