し》でも首でも尻でも身体全体で抱へ込むやうにし、攻撃を加へながら毬《まり》のやうになつて落下して来たのである。
 またある時は軒下に張られた蜘蛛《くも》の巣に引つかかつたジガ蜂を見たことがあつた。蜘蛛の巣はまだ新しくほころびてもゐなかつた。ジガ蜂は引つかかつたなと思ふと、ぶるんと激しく足ぶるひして次の瞬間にはもう器用に抜け出して、そんなことがあつたともいはぬやうな顔で高い夏空さして飛んで行つた。あツといふ間のことで、よき獲物ござんなれと、上の方にゐて狙《ねら》つてゐた蜘蛛がするすると下りて来る間もなく、蜘蛛もあつけに取られた形だつた。その迅速果敢が、いかにもジガ蜂らしかつた。
 それにしても私のこの部屋にはなんといふ沢山な彼等なのだらう。入れ代り立ち代り忙しげな彼等には此頃急にふえて来た蝿共の数も及ばない。「大へんな蜂だなあ。」見舞に来た友だちがふと気づいて眼を見張るほどである。何か特別に彼等に好かれる理由でもあるのだらうか?
 私の部屋の障子窓の柱や鴨居《かもゐ》などには、小さなまるい穴が幾つも幾つもあいてゐる。それが何であるか、いつどうしてできたものか、私は今まで一向気にもとめなか
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