ジガ蜂
島木健作

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)颯爽《さつさう》たる風姿

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一見|華奢《きやしや》のやうに見えるが

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)卵がむしける[#「むしける」に傍点]頃
−−

 初夏と共に私の病室をおとづれる元気な訪問客はジガ蜂である。ジガ蜂の颯爽《さつさう》たる風姿はいかにもさかんな活動的な季節の先駆けたるにふさはしく、沈んだ病室内の空気までがにはかに活気を帯びて来るやうに思はれるのだつた。彼等は一刻もぢつとしてゐるといふことを知らない。飛んでゐる時は勿論、とまつてゐる時も溢るる精気に絶えず全身を小刻みにキビキビ動かし続けてやまない。胸から腹に続くところは糸のやうに細く、全体に細長い胴体はスマートで一見|華奢《きやしや》のやうに見えるが、その実しんなりと硬く強靱で、あの細腹にしてからが棒切れぐらゐで引きちぎらうとしてもさう簡単に引きちぎれるものではない。色も鋼鉄のやうな光りをもつてゐて、真黒といふよりは青光りのする美しさである。翅《はね》も日の光を受け
次へ
全10ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島木 健作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング