ました。傍でそれを聞き込んだ役人たちは、ただでさえ、むしゃくしゃしている矢先のことでございましたから、「なにを小癪な」と、一時はいかなることかと心配のほどでありましたが、たまたまその中の上役の一人が、「まあとにかく、どんな考えを持っているのか、一つ訊いて見ようではないか」というので、「いったいそれでは、どうすれば堰止めることができるというのか」と聞いて見ると、婆さんの言うには「なにも、私に聞かれても、私だところでそれは困る。知らない」。だが「少なくとも川に手をつけようとするからには、まずその川に訊いて始めなければ嘘だ」。「なに、河がものを言うか」。「いやものは言わない。しかし訊きようによっては、川の心持ちはいくらでもよく判る。それには、この川の両岸に立って一筋の繩の両端をお互いに持ち、その繩を静かにゆるめながらこの河へ流して見る、そうして、その繩の流されるその形に従って堰堤を築けば、堰止めることができる筈ではあるまいか」といって立去ってしまった。なるほどまんざらでもないようであるというので、そのお婆さんの言う通りにやって見ると、初めて見事にそれが成功した。そこで最初の憤怒にも増し、大き 
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