っていきなりに問えり、「めざす絶島にはいつ達すべきや」と、もとより手真似の問答なればしかとは分らねど、船長は毛だらけの手を前後左右に振って
「達すべき時にあらざれば達せず」と、無愛相に答えしようなり。彼はそのまま行き過ぎる、余はとりつくしまもなし、艫《とも》の方を見れば七人の水夫、舵を取り帆を操りながら口々に何か語り合う、その声あたかも猿のごときが、ふと何物をかみつけけん、同時に話声《わせい》をやめてとある一方に眼を注ぐ、余も思わず釣りこまれて、彼等の眼の向う方角を眺むれば、そこは西南の方水天一髪の辺、かすかにかすかに一点の黒き物見ゆ、巨鳥か、鯨か、船か、島か。島ならばあれこそめざす絶島と思えど、どうも島にてはなきようなり、島にあらずば何か、余はいかにもしてその正体を見届けんと、なおしばらく甲板を去らざりしが、かの黒き物は近づくごとく、近づかざるごとく、そのうちに日はまったく暮れて海上暗くなり、わが船上に一点の燈火輝くのみ、四方の物まったく見えずなりしかば、余は詮方なく、船中に唯一個ある昇降口を下って、船底の寝室に入り、このような時には早く寝ね、夢の間に一夜を過すにかぎると、すぐさま毛
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