布をかぶって身を横たえしが、胸は異様にとどろいて容易に眠られず、これぞいわゆる虫の知らせと云うものならん。
五
しかし余は一時間とたたぬうちにうつらうつらとなれり、眠れる間は時刻のたつを知らず、いつの間にか真夜半《まよなか》となりしならん、余は夢に恐ろしく高き塔に昇り、籠手《こて》をかざしてあまねく世界を眺めいるうち、フト足踏みすべらして真逆様に落つると見、アッと叫んで眼をさませば、塔より落つると見しは夢なれど、実際余は、初め船底の右舷に眠りいたりしが、いつの間にか左舷にまろびいたるなり。オヤオヤと叫んで立ちあがるに、船底は大波を打つごとく、足許ふらふらとして倒れんとす、さては余の眠れる間に、天候にわかに変り、海上はよほど荒るると見えたり、願わくは波速かに静まれと祈りつつ、ふたたび船底に身を横たえる、途端もあらせず、船は何物かに衝突しけん、凄まじき音して少しく右舷に傾けり、「暗礁! 暗礁!」と余はただちに叫べり、人外境とも云うべきこのような大海原にて、他船に衝突すべしとは覚えねば、余はいかなる暗礁に衝突せしかを見んと、バネのごとく跳ね起き一散走り、足許定まらず幾度か
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