まろばんとするをようやくこらえて、船底と甲板との間にただ一個ある昇降口めざして走りゆくに、その途々《みちみち》余は甲板上に起る異様なる叫び声と、人々の激しく乱れ騒ぐ足音とを聴けり、されどかかる叫声《きょうせい》とかかる足音とは、船が暗礁に乗りあげし時など、常に起る事なれば格別怪しみもせず、やがて船内より甲板上に出ずる梯子に達し、その梯子を昇るも夢中にて、昇降口よりヒョイと甲板上に顔を現わせしが、その時余の驚愕はいかばかりなりしぞ。空には断雲の飛ぶ事矢のごとく、船は今想像もできぬほどの速力をもって、狂風に吹かれ怒濤を浴びつつ走りいるなり、されど余の驚きしはその事にあらず、見よ! 見よ! 断雲の絶間より、幽霊火のごとき星の照らす甲板上には、今しも一団の黒影入り乱れて闘いおるなり、人数およそ二十人ばかり、我が帆船の水夫のみにはあらず、オオ、これ何事ぞ! 何事ぞ! 船は決して暗礁に衝突せしにあらず、先刻何物にか衝突せし響きの聴えしは、これ海賊船がわが船に乗りかけしなり、日の入るころ水天一髪の彼方はるかに、一点の怪しき黒影見えしは、あれこそ恐るべき海賊船なりしならん、今しも海賊はわが船の甲板に乱
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