晴朗なる日はそのような薄暗き処に閉じこもる必要なし、余は航海中の多くを風清き甲板上に暮すつもりにて、一日も早く世人の知らざる南方の絶島に着し、真珠取りの面白き光景を見んと、それをのみ唯一の楽しみとせしが、あにはからんやこの船こそ、余のためには魔の船となりけり。
四
この船は名を「ビアフラ」と云う、余は便乗を許されし翌日正午頃マザガン港を出発せり。針路を南に南にと取って、アフリカの西岸にそい、おりから吹く順風に帆は張り切れんばかり、舳に砕くる波は碧海に玉を降らし、快速力は汽船もおよばぬばかりなり。
そもそもアフリカ西岸の航路は、以前はヨーロッパよりアジアに向かう唯一の航路にして、喜望峯を迂回して行く船の幾度《いくたび》か恐しき目に遭いし事は、今なお世人の記憶せる処ならん、しかるにスエズ運河の通じて以来、普通の船舶にてこの航海《こうろ》を取るものはきわめてまれに、長き航海中汽船のごときはほとんど見んとして見るを得ず、ただ三角帆の怪しき漁船の、おりふし波間に隠見せるを望むのみ、昔はこの辺に絶えず海賊横行せりと聞けど、今はかかる者ありとも覚えず。
余は昼に大抵帆船「ビア
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