れ、一見してよほど古き船と知らる、船長はアフリカ人にて、色は赤銅《しゃくどう》のごとく、眼は怪星のごとく、灰色の鬚をもって顔の半面をおおわれ、きわめて粗野の人物と見ゆ、その配下《てした》には七人の水夫あり、皆土人にて、立って歩まずば、猛獣かと疑わる、しかし性質は案外温順のようなり。
この船は元来真珠取船にて、アフリカの西岸に沿い、南太平洋を渡って、ほとんど人外境とも云うべき南方に向うものなれば、旅客や貨物を載すべきものにあらず、しかるを余はいかにして便乗せしかと云うに、ちょうどモロッコ国マザガン港の桟橋に達せし時、この異様なる船の桟橋に近く碇泊せるがふと眼に入り、傍人にいかなる船ぞと問えば、真珠取りにと明日はこの港を出帆し、世人の知らざる南方の絶島に行く船なりと云うに余の好奇心はにわかに動きて矢も楯もたまらず、ただちに端舟《はしけ》を漕いでその舷門に至り、言語通ぜねば手真似をもって便乗をこい、船長の拒むをしいて、二百ドルの金貨を握らせ、ようやく便乗を許されしなり。もとより客室など云う気のきいたものはなければ、余は船の最も底の倉庫のごとき処に毛布を敷き、そこを居室兼寝室と定めしも、天気
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