の果に押し流されしものならん、今は船中ことごとく氷にとざされて、その動かざる事あたかも巨山のごとし、余は疑えりあやしめり、されどその間にも火勢はますます激しく、余の帆船は今や全部一団の火とならんとす、●
躊躇せばただちに焼け死なん、余は前後を考うる遑《いとま》もなく、船首甲板の尖端より身を跳らし、ほとんど舷に接せる彼の怪物――一大巨船の上に飛び乗れり、驚くべし! 余は彼の船上に飛び乗りただちに船内に走入って見るに、その船内の華麗《うるわ》しき事あたかも古代の王宮のごとく、近世の人は夢想する事も出来ぬ奇異の珍宝貨財《ちんぽうかざい》眼も眩《げん》するばかりにて、その間には百人の勇士を右に、百人の美人を左に、古代の衣冠を着けたる一人の王は、端然として坐しいたり、余は跳上《おどりあが》って喜べり、オオ生ける人! 生ける人! と、余りの懐かしさにたえずその前に走り寄れば、こはそもいかにこはいかに、彼等はことごとく生ける人にあらず、笑いを含めるあり、六ヶ敷き顔せるありといえども、すべてこれ死してより幾千年をへたるにや、その全身はあたかもミイラのごとく化石しおれり、いな、ミイラにもあらず、●
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