波の甲板に打ちあぐる音、風の檣《ほばしら》と闘う音、悽愴《せいそう》とも何んとも云うべからず、余は恐怖のために一時気絶せんとせしが、かくてあるべきにあらず、船の震動ようやく収まりし時、恐る恐る船底より甲板に這い出でて見れば、こはそもいかにこはいかに、前面に天をおおうがごとく聳立《そばた》つは一大氷山なり、余の乗れる船はついに地球の果に達し、今しもこの一大氷山の一角に乗りあげしなり、万事休す! 余は思わず甲板上に身を投げて慟哭せり、されど泣けばとていかでかこの悲境より免るるをえん、しばらくたって余はふたたび甲板上に立ちあがりしに、今は地球の果に来りて、大氷山の陰になりしためにや、風も何時か吹きやみて、船が氷山の一角に乗りあげし時、その余響を受けて荒れまわりし激浪怒濤も、次第々々に静かになり、四辺は急にシーンとせり、人の恐るる地球の果、人間とては余の他には一人もなく、鳥もおらず、獣もおらず、魚すらもおらず、●
実にこの天地間にあって、何の物音も聴えぬと云うほど物凄き事はなし、余は寂寥のためにまず気死《きし》せんとせしが、ようやく気を取直してそろそろ四辺を見まわすに、天地間の暗き事依然とし
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