たりし船燈を取って倉庫中を捜しまわるに、衣類とては一枚もあらざれど、片隅には燈油箱などと相列んで、数十枚の毛布積み重ねてありたれば、試みに手を触るるに、ここには海水打ちこみ来らざれば濡れてはおらず、天の与えと打喜《うちよろこ》び、ただちに三枚の毛布を重ねて衣服の上にかぶり、ようやく少しく寒気をしのぎたり。
しかるにフト心づけば、余の手に提げたる船燈は、もはや油尽きしものか、青き光ゆらゆらと昇って今にも消えんばかり、この船燈こそ船中に残る唯一の光にて、マッチのごときはことごとく湿りたりと覚えたれば、この火を消しては一大事と、余はあわて狼狽《ふた》めき、慄《ふる》う手に側の燈油を注ぎ入れて、辛くも火を消さずに済みたり、この火消えなば、余は実に暗中に煩悶して、暗中に死すべかりしなり。
火は以前より多少明るくなれり、されど火明るくなりしとて、余に希望の光《ひかり》微見《ほのみ》えしにあらず、余は刻一刻死の場所に近づきつつあるなり、船は瞬間も休まず地球の果に向って走りつつあるなり、ああこの船の行着く先はいずくぞ、今は真珠の多く取れると云う絶島に流れ寄らんなどとは思いもよらず、地球の果には一大
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