もって塗り込められしがごとくすべての物皆濁れる黄色に見ゆ、さればこそ余は先刻死せる海賊の巨魁《きょかい》を、生ける恐ろしき人間と見誤りしなり。
ああかかる不思議なる光景は世界のどこにありや、余は二三分間黙考せしが、たちまち我ながら驚くごとき絶望の叫声《きょうせい》を発せり。
「永久の夜! 永久の夜!」
永久の夜と云う事がこの地球上にあり得べきや、しかりあり、いまだ見し人はなしと云えど、この地球上―人間の行くあたわざる果に到れば、そこには昼なく常に夜のみと云う事をかつて聞けり。
「オオ永久の夜! 永久の夜!」
余の乗れる帆船「ビアフラ」は、人間の行くあたわずと云う地球の果に向い、永久の夜に包まれて走りおるなり、ああ帆船「ビアフラ」は、余を乗せてどこまで走らんとするか、昔人は云えり、地球の果は一大断崖にて船もしそこに至れば、悪魔の手に引込まれて無限の奈落に陥込《おちこ》むべしと、今はそのような事を信ずる者はあらざれども、地球の果の断崖なると否《いな》とを問わず、余の船は今一刻々々余を死の場所へ導きつつあるなり、シテ見れば余が気絶以前に見たりし夕日は、この世にて太陽を見し最後なりしか、
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