にその三分の一以上破れたれど、ものすごき疾風を受けて、船の走る事矢のごとし、余はただ一面の帆にて何故《なにゆえ》に船がかくまで速く走るやを知らず、なに心なく大檣《たいしょう》のそばに近づかんとせしが、フト見ればその大檣《たいしょう》の下には、一個の恐ろしき人間立てり、余は思わず逃げ出したり、逃げながら振返って見るに、彼の人間は余を追わんともせず、依然として身動きもせず立ちしままなり、ハテ不思議なる事かなと、臆病なる余も足を停めてなおよく見れば、追わぬはずなり身動きもせぬはずなり、彼はすでに死して首をガックリ垂れおるにて、その服装より見れば海賊の巨魁《きょかい》ならん、剣を甲板上に投げ棄て、大檣《たいしょう》にその身を厳しく縛りつけいたり、実に合点の行かぬ事ながら、しばらく考えて余はハハアと頷きたり、思うに余が気絶せし瞬間船に大震動を来せしは、海底噴火山の破裂のため、驚くべき巨浪《きょろう》が船上に落来りしか、しからずば船が大龍巻にでも巻き込まれ、甲板上の海賊等は、余を殺すより先に自分等の身が危くなり、一同驚き騒ぐ間に、彼の男は海賊の巨魁だけに素早くその身を大檣に縛りつけ、巨浪に持ち行か
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