、殺さるる覚悟にてふたたび昇り始めぬ。
梯子を昇りつくし、それでもなるべく音の立たぬよう昇降口の蓋《おおい》を開き、じつに恐る恐る半身を突出して甲板上の光景を眺めしが、オオ! オオ! オオ! なんたる甲板上の光景ぞや、余は生れて以来、かくのごとく意外なる光景を見し事なし、定めて甲板上には船員の死屍散乱し、海賊等はなお猛威を振いおる事と思いしに、余の予想はまったく反せり、甲板上は寂寞としてほとんど何物もなし、海賊もおらねば船員の死骸もなし、余はあまりの事に驚きかつ怪しみ、ただちに甲板上に跳り出でてなおよく見るに、甲板上のあらゆる物は破壊され、船員の死骸などは洗去られしものならん、今は血一滴も残りおらず、そのうえ羅針盤は砕かれ、船上にありし二個の端舟《ボート》も海中に呑み込まれ、船首の方に立ちたりし船長室も、そのままどこにか持ち行かれしものならん、影も形もなく、この船は元来三本の檣《ほばしら》を備えしものなるが、その二本はなかほどより折れて、これまた帆とともに行方を知らず、広漠たる船上に残るはただ一本の大檣《たいしょう》のみ、この大檣は甲板の中部にあり、檣上より一面に張られたる帆は、すで
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