にたえず、何時までも船底に潜みおらんかと思いしが、さりとて海賊等がいかになりしかを知らぬうちは安心できず、ついに意を決し、抜足差足して昇降口の方に向えり、梯子を半ば昇りて耳を澄ますにやはり人声は聴えず、心づけば先刻海賊等が開きかけし蓋《おおい》は、何時の間にか以前のごとく閉ざされてあり、思うに海賊が半ばその蓋《おおい》を引き上げし時、彼の意外なる大震動のために思わずその手を放し、蓋《おおい》はふたたび落ちて以前のごとく昇降口を閉ざせしならん、されど海賊が鉄槌にて打ち砕きし入口の破れ目はそのままにて、そこより海水は船内に打ち込みしなり、鉄の欄干《てすり》も梯子も皆濡れて、油断をすれば余は滑り落ちんとす、今はやや海上静まりしと見え、怒濤の破れ目より打込むような事はなけれど、決して暴風《あらし》のやみしにあらず、船の動揺はなかなか激しくして、時々甲板上に巨浪《おおなみ》の落来る音聴ゆ。
梯子の中段に立ち止まって余は耳を澄ます事|少時《しばし》、ここより上に昇るべきか昇るまじきか、甲板上になお海賊おらば、余はただちに殺されん、されど甲板上の光景を見ぬうちはどうも安心できず、余はついに意を決し
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