づけば船の動揺はなお止まず、余はある時間の間気絶せる後、またもや打ち寄する巨浪《おおなみ》のために、船は激しく傾き、一方より一方にまろんで頭を打ち、今ようやく息を吹返せるなり、他人が余の頭を打ちしにあらず、余自ら頭を打ちつけしなり、とにもかくにも起きあがってその辺を捜りまわるに、何時の間にか海水は浸入して、余の全身は濡鼠のごとくなりいたり、船底より浸水せしものか、それとも、甲板の昇降口より波打込みしものか分らねど、何しろこの海水のために余の身辺の燈火《ともしび》は消えて四方は真暗く、ただ船内ズット船尾の方に高く掲げられたる一個の船燈のみが、消えなんとしていまだ消えず、薄気味悪き青光をかすかに洩すのみ、時刻も分らず場所も分らず、時計を出して見るに、その針はすでに停まりいたり、余の時計は二日|持《もち》にて、かの悲劇の起る二三時間前に龍頭を巻きたれば、この時計の停まるを見ても余は気絶せるまま少なくも二日以上を過せるものと知らる、それにしても彼の海賊等はいかにせしかと、余は静かに立ちあがって耳を澄ますに、船外には相変らず風荒れ波吼ゆるのみ、されど人声とては少しも聴えざりけり。
 余は気味悪さ
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