板踏み鳴らす足音も荒々しく狼の吼ゆるがごとく、また猿の叫ぶがごとく罵り騒ぐは、ここ開けよ開けよと云うならん、開けては一大事なり、余は両手を伸ばし、死力を出して下より蓋《おおい》を押えおる、海賊等は上よりこれを引きはなさんとす。幸いこの帆船《ほまえせん》には船底と甲板との間に、この昇降口一個あるのみなれば、ここぞ余のためにはサーモピレーの険要《けんよう》とも云うべく、この険要破れざる限りは、余の生命続かん、生命のあるかぎりは、いかでかここを破らすべきと、余は必死なり、海賊等も必死なり。海賊等は昇降口の容易に開かれざるに、怒り狂い、足をあげて蓋《おおい》を蹴たり、されど蓋《おおい》の表は滑かに、鉄の板一面に張られたれば、なかなか破るるものにあらず。
そのまにも海はますます荒れまさるようにて、帆綱にあたる風の音はピューピューと、波は次第々々に高まりて舷を打つ、かかる大荒れをも恐れず、海賊等は是非ともこの入口を開かんとするなり、やがて余の頭上にあたり、ガチンガチンと異様なる響聴《ひびきのきく》を始めしは、彼等がどこよりか鉄槌を提《ひっさ》げ来り、一気に入口を打ち砕かんとするなるべし、蓋《おお
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