す、船長は泣けり叫べり、屍を取って楯となし、しばし必死と防ぎしが、多勢に無勢到底敵するあたわず、大檣《たいしょう》をまわり羅針盤の側を走り、船首より船尾に逃げ行きしが、もはや逃ぐるところどこにもあらず、後よりは兇刃すでに肉薄するに、今はたまらず、身を跳らして、逆巻く波間に飛び込まんとする一刹那、一海賊は猛虎のごとく跳《おど》りかかりヤット一声船長を斬りさげたり、船長の躰《たい》は真二つに割れ、悲鳴を揚ぐるいとまもあらず、パッタリと倒る、血は滾々《こんこん》と流れて、その辺は一面に真紅となれり、あまりの悲劇に、余は船長の倒れると同時に、思わずアッと叫びしが、ああこの声こそ、余のためには大災難の声なりき。
すでに船員の全部を屠りつくして、もはや船中には人なしと思いいたりし海賊等は、余の声を聴き痛く驚きし様子にて此方《こなた》を振り向きしが、余の姿を見出すやいなや、悪鬼のごとき眼を光らして口々に何か叫びながら、切先揃えてドヤドヤと押し寄せ来たり、サア大きなり、捕えられてはたまらぬと、余はただちに昇降口の下に首をすくめ、素早く入口の蓋を閉ざせり、その瞬間海賊等ははや入口の周囲に来り、頭上の床
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