嘆符三つ、45−上−6] 二人は驚いて、互に顔を見合せていたが、東助は声を潜めて、
「あの声は何でしょう。」
「さあ。」
と、始めは空耳ではないかと、耳を澄ますと、その唸り声は尚聞える。静かな、湿っぽい、洞穴に、弱々しい、切なげなその声が幽《かす》かに聞えて、二人は思わず戦慄した。
 文彦は矢庭《やにわ》にライフル銃を取り上げて、装填しつつ立ち上り、東助をさし招いた。
 東助も同じく玉籠めして主人の後に続いた。二人はさながら猫の鼠を覗《ねら》うように、息を凝らし、足音を忍ばせてその音のする方に這い寄った。
 二、三間も行くと道は右に折れている。
 唸り声は正しくそこから洩れて来るので、余程遠いと思ったのは、その声の余りに幽かに弱々しかったからで。
 突き出た大きな岩の手前まで来ると、その声はいよいよ鮮《あきらか》になった。
 正しくそれは人の唸り声だ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
 急ぎその岩を巡ると、広い一室の真中に、一箇の蝋燭が今にも消えんばかりに点って、ほの白く四辺を照らしているその下に、何やら黒い物影が二つ横わっている。唸り声はその中の一つから起っているので、その黒い影は時々
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