ては千万年にも代え難いのだ。彼は最極度の電流を出《いだ》して突進せしめながら一発の空砲を放った。
 今しも全速力を出そうと把手《ハンドル》を握っていた秋山男爵は、この砲声に思わずその手を放すと、把手は逆に回転して、飛行船は少しく下降した。ハッと思って持ち直した時にはもう文彦の飛行船は手の届くくらいの近距離に近づいていた。
「秋山男爵※[#感嘆符三つ、50−上−4]」
 文彦は、勢鋭く声をかけて、
「久しぶりにお目に懸ります。」
と態《わざ》と丁寧に会釈をした。
「左様。」
と秋山男爵は傲然として答えた。
 文彦は言葉を継いで、
「秋山男爵。改めて申しますが僕は叔父を受取りに参ったのです。」
「叔父? 叔父というのは篠山博士の事ですか。」
「左様。」
 秋山男爵は俄に言葉を荒らげて、
「馬鹿な事をいうな。虫のいい事をいうにしても大概にしておくがいい。僕がここまで態々《わざわざ》死を決して来たのは何のためだ。ただ篠山博士の在処を捜らんがためだ。それほどにして得た博士を何条おいそれと貴様に渡す事が出来るものか。馬鹿※[#感嘆符三つ、50−上−20] それほど欲しくば何故自分で捜さんか。」

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